広告日誌

広告会社でプランナーをしている人間が書く日誌。サブカルからスポーツまで幅広く。

2/27 広告代理店とクライアントの関係

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先日、テレ東の「カンブリア宮殿」を観ました。ケンタッキーを運営している日本KFCホールディングス近藤社長が特集されていた回で、昨今好調な経営状況について深掘りする内容でした。(まだTVerで視聴できるので興味を持たれた方はどうぞ!)

※我々は自分たちのことを広告会社と呼ぶのですが、世の中一般に合わせ広告代理店とタイトルには表記しました。

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番組内でしっかり紹介されていましたが、既存店客数の推移、2016年から2017年にかけてはかなり苦しかったようです。

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毎年12月だけで年間利益の8割ほどを稼ぐという話は印象的でしたが、12月だけに依存した稼ぎ方は健全とはいえませんよね。しかし、そういう業界って実は少なくなくて紳士服業界もフレッシャーズ時期(2~3月)にほぼ同じくらいの割合を稼いでおり3月依存です。稼ぐタイミングをいかに分散させて収益源を多様化させるかはどの業界でも重要かと思うわけです。

この番組をみていて強く感じたのは、我々広告会社はクライアントの経営パートナーになれるか、単なる出入りの業者で終わるか、どちらになるかで会社の生き死にが決まってくるなぁ、怖いなぁということです。そのどちらになるかは広告会社次第ですが、(意識的か無意識かはさておくとして)その判断は会社(広告会社でいえばひとつの営業局)の経営を左右する死活問題になっているということです。

ちなみに、日本KFCホールディングスを担当する広告会社は2018年に「ADK+Ogilvy」から「博報堂」にアカウントが移りました(高畑充希を起用した施策は博報堂制作)

広告業界ではあるあるですが、クライアントの経営環境が良くないとき、よく広告会社は変えられます。一方的に変えられることはありません。競合コンペというかたちで、次期プロモーションについて各社が提案する訳です。経営環境の悪化は、一概にクライアントの責任とも広告会社の責任とも言えず、双方のやり方が良くなかったというのがその状況をもたらした要因だ、というのが冷静な分析だと思うのですが、最終的に変えられるのは広告会社だし一瞬で数十億の案件を失うので本当に大変な仕事だと思います。

日本KFCの不振は何が要因だったのか?

社長自ら認める失敗ですが、新規顧客を取り込もうと展開した一連の「ハンバーガーキャンペーン」は失敗施策だったようです。

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ちなみにこの新施策、日本KFC社内でも意見が割れてメニュー開発側とマーケティング側で売れない責任のなすりつけ合いが起きていたようです。

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そうなると、担当する広告会社としてはクライアント社内でも意見が割れて疑問が投げかけられている商品を、何とか辻褄を合わせて無理やり売ろうと奔走していたんだろうなぁ、と勝手に想像します。

「広告会社の側から何も言えない」それは本当か?

正直なところ「言えない」のか「言わない」のかは分かりませんが、クライアントに対してある種ネガティブな意見というのは言い出しにくいというのはよ~く分かります。下手に良くないことを言って担当を変えられては元も子もないですから言わないで済むなら言いたくありません。しかし、そういう姿勢を決めた時点で確実に出入りの業者に格落ちするんだろうなぁ、というのも思う訳です。

広告会社は経営パートナーになり得るか?

コンサルティングファームがクライアント企業の経営パートナーというのはイメージできる人が多いと思います。一方の広告会社も社内にコンサルティング機能を持っていたりするので経営パートナーになろうという気持ちはあるのですが、そう簡単にできるわけないのがコンサルティングです。

結果論ですが、消費者の嗜好やニーズをデータに基づいて(つまり、根拠をもって)示すことで「消費者はケンタッキーにハンバーガーは求めていない」ということを早い段階で理路整然と伝えることができれば良かったのかもしれません。しかし、それは理想論だと言われるでしょう。それは恐らくクライアントの現場とよほど深く連携していないとそういう議論にもならないだろうし、実際にデータを取ろうとすれば時間もお金も掛かることなので、クライアントからは「えぇ、それ必要ですか?」「調査のための調査はやりたくないんですよねぇ」とか、ネガティブな反応が返ってくると思います。そこを、「必要なんです!」を押し返して、実行まで移せるだけの信頼関係だったり、担当としての胆力があれば良いのですが、簡単ではないことは誰もが知るところです(私にも出来るか分かりません)。しかし、それを我々広告会社はやるしかないんだと思う次第です。

我々はTVCMやメディアの力を信じているので、良いマーケティングを行うことができれば企業の経営は改善すると信じています(クライアント側の認識はそうではないことも多いのは事実ですが)

皆さんに観て頂きたい動画が2つあります。以下の2つのCMを見比べ、どれだけ購入意向来店意向に変化があったか考えてみて下さい。

 

桐谷健太

高畑充希

前者がADK+Ogilvy制作、後者が博報堂制作です。タレントパワーでいえば、auのCMはじめ芸能界で活躍している桐谷健太も、高畑充希も遜色ない人たちだと思いますし、動画の構成も前者に大きな落ち度があったとは思えません。しかし、2016~2017年の成績は悪く、2018年以降に数字が回復している。それが事実でした。

後出しの議論なので何とでも言えますが、確かに「今日、ケンタッキーにしない?」というコピーの方が良かったのかもしれません。12月のみに依存しない売上をつくるという企業の姿勢も示せますし、「たまに無性に食べたくなるケンタッキー」という消費者のインサイトを踏まえ、クリスマスだけじゃなく平日にも店頭に来てください!というメッセージが十分に伝わると思います。施策としても効果が出たから、良いマーケティング戦略だったのだと思います。しかしながら、どれも後付けの話です。

広告会社はどちらかというと受注ベースの産業であるから、クライアントのことを考えすぎるあまり、「こういうのはクライアント好まないよね」とか「クライアント的にこれNGでしょ」と先んじてアイデアの幅を狭めてしまいがちであることは否めません。長年クライアント担当を務めたメンバーがチームにいると、クライアントの社内事情に詳しいことが良い方向に働くこともありますが、逆に足かせになることも多々あります。

半分クライアントの社員になったつもりで働く!なんて仰る人もいますが、あくまで第三者としてのポジションは捨てずに持っていないことには、クライアントの経営パートナーになることは出来ないんだと思う次第です。

我々はともすると、クライアントに嫌われたくないから彼らに同化してしまい「悪いことは言わずに良いことだけ言う」そんな姿勢に陥りがちです。しかしながら、あくまで消費者が何を求めているかを冷徹に分析しアウトプットに落とし込める会社こそパートナーになれるのだろうと、番組を観て思いました。

社長があれだけ潔く「あれは失敗だ」と認めることは稀かもしれません。ましてや、我々一般人がそのようなことを知ることは更に稀だと思います。

しかし、番組をキッカケに知ることになったこの状況ですが、自分の担当クライアントであろうとなかろうと、経営視点を学ぶためのケースは世の中に多く転がっているのだから我々はそういったことに常にアンテナを張っている必要がやはりあるんだと思う。

心に留めて日々の仕事を行っていきたい。